仙台事業所「市場のアイドル」

宮城県塩釜市 K・Hさん(74歳)


夜明け前の塩釜水産物仲卸市場。吐く息も白く、全身が凍りつくような寒さの中、Kさんが店先に座っておられました。
結婚を機にご主人のSさんと魚市場にH商店を開いて以来約50年。Kさんは今も市場には欠かせない顔として、息子のNさん(46)に車椅子を押してもらい、毎朝通っておられます。
Nさんが「昭和1ケタの時代の母ですから」とおっしゃるように、その道のりは決して平坦ではありませんでした。昭和40年辺りからご主人が肝硬変で入退院を繰り返し、昭和51年、Kさんと2人のお子さんを残して他界されました。以来、息子さんと娘さんを女手一つで育てるために、毎日午前1時半に起きて市場へ通い、寝食を忘れて働かれたそうです。
そんなある日、市場で転倒して膝を痛めた際に、かねてからの手の震えなどから「パーキンソン症候群ではないか」という診断を受けました。Nさんもそれを聞いて大変ショックだったと振り返ります。それでもKさんは一生懸命働いて、二人のお子さんを大学まで育てあげられました。
白髪のおばあちゃん
NさんはそんなKさんを気にかけ、10年ほど前に仕事を辞めて、一緒に店を営むことにしました。「子供の頃に見た、大きな風呂敷袋を背負う母の後ろ姿が忘れられなくて…」。Nさんには「女手ひとつで大学まで出してもらった」という感謝の思いが強くあります。
膝を痛め、パーキンソン症候群と診断されても元気に働いておられたKさんでしたが、平成14年に心不全で緊急入院されました。風邪のウィルスが原因ということだったようですが、この入院をきっかけに歩行が困難になってしまったそうです。それでも仕事を辞めるという選択肢はKさんにはありませんでした。市場のたくさんの仲間たち、さらには並びの店で今も元気に働いていらっしゃる84歳の先輩の存在が心の支えとなりました。今ではKさんが市場で2番目の古株です。「古いお客さんはやはり母がいないと」というNさんの言葉に、Kさんが少し誇らしげに見えました。
「立って歩けるようになりたい」という意欲的なKさん。昨年の夏にはヘルパーさんと同窓会に参加して、大変素晴らしい思い出ができたと喜んでおられました。
やさしい家族や仲間に囲まれ、人とのふれあいや仕事に意欲的なHさん親子に力強さを感じ、私たちふれあいマッサージが少しでもお役に立てれば、という思いを新たに、清々しい気持ちで朝日の昇る市場を後にしました。