山梨事業所「夢をかなえる発明家」

山梨県山梨市 M・Kさん(68歳)


「夢みたいなことを考えて、それを具体化していく。だからあだ名はバクなんです」。奥様のEさんはKさんのことをこう言います。Kさんの夢を実現する方法-それは「発明」です。

Kさんは4年前まで、配送会社の社長として多忙な日々を送っていました。夜遅くまで仕事をし、夜中に帰ってきてから趣味の油絵や発明に没頭…。絵は個展を開くほどの腕前、発明は緊急時に旅客機の操縦室と客室の行き来を遮断して操縦室乗っ取りを防止する装置や、自在に回転する地雷除去装置など多くの特許を取りました。

そんな忙しさの中にも充実感のある毎日がある日一変します。脳出血。出張帰りの電車内で倒れて意識不明に陥り、目覚めた時には右半身まひと重い失語症が残りました。
努力家のKさんは、約半年間の懸命なリハビリで杖歩行ができるようになりました。しかし発語機能はなかなか回復しませんでした。思っていることが伝えられないストレスで、いらいらしたり落ち込んだりする毎日でした。そんな日々に変化が起きたのは、言語聴覚士さんの訪問リハビリ中、左手で描いた車椅子の絵がきっかけでした。
車椅子のブレーキは左右の車輪にそれぞれ付いていて、Kさんのように片手が不自由な方にとってはとても不便です。そこで片側のレバーを引くだけで両輪にブレーキがかかる装置を考えたのです。発明家・Kさんの復活でした。

「それまではどことなく元気のない感じでしたが、発明を再開してからは表情が明るくなりました。訓練中も発明の話になるといきいきとして口数も増えます。『伝えたい』という強い思いがリハビリにも良い効果を与えるのです」と言語聴覚士のHさん。失語症患者さんの回復に一番必要なのは理解者だといいます。理解してくれる人がいるから伝えたいと思い、伝えようと努力する。Hさんは、訓練中もゆっくりKさんのペースを待ち、時には発明や絵の話で盛り上がったり、自宅2階のアトリエで絵を眺めたり。Kさんの「伝えたいこと」を大切にされています。よき理解者がいたことが発明に再挑戦しようという気持ちを生んだのでしょう。

発明を再開してからは、ずっと断っていた失語症友の会への参加にも積極的になりました。Hさんが「最近○○さんはとても明るくなりましたよ」と会の仲間の近況を伝えると、Kさんの表情がぱっと明るくなります。「それまではなぜ自分たちばっかり…と暗い気持ちにもなりましたが、友の会に参加してみたら、杖をついて参加している失語症の方がたくさんいました。中には日本半周の旅をした方もいて、頑張らなきゃと勇気をもらいました」と悦子さんも話します。
Kさんは、車椅子の両輪ブレーキ以外にも、液体がこぼれないようふちに押さえをつけたスプーンや、足がワンタッチで収納できる4点杖など、ご自身が感じた不便さを発明で次々と解決していきました。

アイディアが浮かんだおじいさん

試作品を友の会の仲間にも使ってもらって意見を聞き、改良を加えました。今はワンタッチで上下する車椅子のフットレストと車椅子に備え付けられる買い物カゴを開発中。いずれもご自分の経験が基になっています。
Kさんはあふれるアイデアを形にするだけでなく、「せっかく使いやすく改良してもみなさんが使えるようにならなければ意味がない」と、商品化してくれる企業を求めて、東京での見本市に自ら出向いたりしています。
また、右手で筆が持てなくなって中断していた油絵も、左手指に直接絵の具を付けて描き始めました。今は色鮮やかな紅葉の嵐山を作成中です。さらに、ご自宅2階のアトリエ横に展示室を増設中。Kさんの挑戦はまだまだ続きます。