山梨事業所「信念を貫き通す」

山梨県甲府市 S・Uさん(68歳)


「誰が何と言おうと、自分の信念を貫き通す。自分の体のことは自分が一番よく分かるんだから、自分が納得できなきゃ先生の言うことでも聞かない。やっかいな患者だよ」。そう言って笑うUさんは、命の危機を何度もくぐり抜けてきた不死身の男です。
 平成16年6月、吐血して受診したところ、食道がんが見つかり、食道・胃・膵臓・脾臓・胆嚢・脇のリンパ節を切除する大手術を受けました。術後に合併症で肺炎を起こし、一ヶ月間意識不明。一時は命が危ぶまれましたが、奇跡的に回復し、3ヵ月後には退院して、仕事に復帰しました。
 主治医から「再発の可能性があるから、やりたいことをやりなさい」と言われ、仕事に打ち込み、2年が過ぎました。それまで以上に充実した生活を送っていたUさんを再び悲劇が襲ったのは平成18年7月でした。

 自宅の階段から転落。頭を強打し、頸椎を損傷、四肢の麻痺と知覚障害が残りました。胸から下には全く力が入らず、感覚もありません。突然身体の自由を奪われただけでなく、常に伴うしびれと痛み。ベッドで寝ていても、ほんの少しのずれで体が辛くなります。そんな時でも自分で位置を直せないもどかしさ…。心身の苦痛は想像を絶します。
 それでもUさんは決してあきらめませんでした。何とか動く腕を使ってできることをと、ベッドのリモコンスイッチに100円ショップで買ったマグネットを付け、手首の骨を当てて押せるように工夫しました。また、奥様が留守の時はイヤホンを付けておき、電話に出られるようにしました。
リハビリにも積極的に取り組み、支えを利用しての立位訓練、自転車こぎなど、体の状態を考えれば、普通では不可能と思われることにも挑戦しています。起立性低血圧があるため、立位を取ると失神することも。それでもあきらめずにリハビリを続けます。

「やれば何でもできる。要は本人の根性次第。可能にするもしないも気力次第だよ」と穏やかな笑顔で語るUさんの精神力にはただただ圧倒されるばかりです。
今年に入り、電動車いすの操作にチャレンジ。リフトで移乗し、手首でレバーを押して前後左右に車椅子を操ります。狭いスロープを巧みにすり抜け、近所を散歩するのが日課です。

車いすのおじいさん

8月には開発中の油圧式歩行補助具のデモンストレーションにも協力したとのこと。装具は股関節までだったため、上体を保持できないUさんは別の固定具を上体に付けて挑戦。「最初は変な感じだったけど、歩こうという意志がなければ前に進めないと分かったので、自分で歩く姿をイメージしてみた」ところ、10歩歩けたのです!わずか10歩ですが、完全に足が麻痺しているUさんにとっては画期的なことです。「いいもんだよ。こりゃ歩けると思った。まあ、機械に助けられて歩けてもしょうがないんだけど」と言いつつ、嬉しそうです。

「根性じゃ人には負けないよ。こうなってしまって、人の役に立てない人生じゃ生きたくないとも思うけど、それでも何か人の役に立つ方法があるだろうと思ってるよ」
最近は体調の変化が目まぐるしく、発熱や血圧の変動が頻繁に続いています。そんな中でも施術中いろいろな話をしてくださったり、新しく担当になった施術者にも根気強くご指導してくださいます。失敗しても「誰にだってミスはあるさ。次に生かせばいいんだよ」と逆に励ましてくれるUさんの強さと優しさに、身が引き締まる思いです。
「来年の7月で父親の(亡くなった)歳を越す。それまでは生きていたい」と言うUさん。そんなUさんを献身的に介護する奥様は「1日1日を大切に過ごしていきたい」と話します。できることなら100歳で亡くなったというお母様の歳を越えてほしい。その1日1日を少しでも快適に過ごせるように、微力ながらお手伝いしていきたいと思います。