青森事業所「Kさんをとりまくあたたかい輪の中に」

青森県青森市 T・Kさん(69歳、脳梗塞)


「左手を握って声を掛けると、ギュッて握り返すんですよ」。脳梗塞で倒れて3ヶ月。病室で初めてお会いしたKさんは、上体を少し起こしてはいましたが、ぐっすり眠っていらっしゃるように見えました。奥様のSさんが、リハビリ用のゴムボールをKさんの左手からそっと取り出してくださり、手を握らせてくださいました。その時のKさんの手の温かさと優しい握力が忘れられません。

 平成22年3月8日朝、Kさんはいびきをかいたまま目を覚ましませんでした。救急搬送され、脳梗塞の診断を受けました。Sさんと病院の懸命の看護とリハビリを経て、自力ではほとんど動くことはできず、目は閉じたままではありますが、在宅での介護の環境が整ったことで6月末に退院となりました。
 Sさんは看護師という専門職の立場から、またお義母様を介護した経験から、訪問マッサージへ信頼を寄せてくださっており、ケアマネージャーさんの計らいで、退院前の担当者会議に出席させていただき、ふれあいも在宅ケアチームの一員に仲間入りしました。
 タクシーの運転手をされていたKさんは、「コメ作りがしたい!」との思いで、51歳の時に兼業で米作りを始められたそうです。10年前にお孫さん誕生を機に米作りに専念。子煩悩な方で、よくお孫さん達と一緒に走り回っていたと、Sさんは目を細めます。
 自宅一階の広々とした車庫の中には、市街地にもかかわらず、米の貯蔵庫と作業用の車、農機が置いてあります。その中でも目を引くのが、オレンジのトラクター。農閑期には農地より引き上げ、バケットを取り付けて、ご近所の雪掻きを引き受けていたそうです。全域が特別豪雪地帯の青森市では、雪の季節になると巨大な除雪車が幹線道路を除雪していきますが、住宅地までは手が回らないのが実情です。Kさんとオレンジのトラクターは、地域の方々にとってどれだけ心強い存在だったことでしょうか。

稲

 Kさんは現在、訪問診療と訪問看護、デイケア、デイサービス、訪問入浴、マッサージを続けていらっしゃいます。その忙しい日々を支えるSさんの力強い協力者が、ご夫妻の友人であるお隣のIさん夫妻です。朝の身支度のお手伝いに始まり、さまざまな相談事や、Kさんが今までしてこられたことを引き受けてくださり、身内以上の存在だとSさんはおっしゃいます。オレンジのトラクターはIさんが引き継いでくださり、今も地域で活躍しています。
 現在は強い拘縮は見られず、施術時に左側臥位にすると、右手で反対側の柵を掴めるようになりました。Sさんが「父ちゃん、どっち向く?」と聞くと、首を左右に振って伝えるそうです。11月からは言語訓練も始まり、声を出す練習もしています。目下の目標は、暑くなる時期に向けて、口から水を飲めるようになることです。

 病に倒れて1年。K家には、Iさんはじめご近所の方々、仕事仲間や友人など、たくさんの方が関わっていらっしゃいます。地域医療と介護の連携、そして人と人との支え合いがいかに大切であるか、私達はKさんご夫妻から多くを学んでいます。お二人を支える輪の一員として、これからも精一杯のお手伝いをさせていただきたいと思います。