「弱者集団」で高齢化社会に挑む

~人に寄り添う介護の実践で日本一の会社に~

2015年9月10日(木)~11日(金)にかけ甲府市で開催された、中小企業家同友会全国協議会主催・青年経営者全国交流会で弊社代表取締役社長の澤登が行わせていただいた講演の全文です。

 

フレアスロゴ 会社概要、事業内容

当社の創業は2000年です。従業員は560名程で、売上高は創業6年後に5億円、昨期は25億円になりました。今期は昨年対比120%ほどで30億円の売上を見込んでいます。経常利益は1.8億円ほどとなります。我々の提供するサービスは訪問でのマッサージで、医療分野の仕事です。この訪問マッサージの分野では国内シェアトップです。年間利用者数は現在1万人で延べ人数で60万件になっています。3年前から始まった訪問看護も現在8箇所で運営しています。

「弱者集団」というタイトルになっていますが、一例を紹介すると、ある社員は目が見えません。視力障害で27歳の時に失明し、盲学校卒業後に当社に入社しました。72歳のドライバー社員が誰よりも早く来て事務所を掃除し、目の見えない彼のフォローも一生懸命してくれています。視覚障害のマッサージ師も高齢のドライバーも強者ではなくどちらかと言うと弱者といえます。
このようなチームは当社には50組ほどいます。100人以上の人達がうまく組み合いながら力を発揮して価値を生み出しています。これが本日のテーマの弱者集団ということです。

訪問マッサージ・訪問看護のフレアス

フレアスロゴ 創業からの経緯

私自身も弱者でした。小学生の頃は内向的で学校生活にストレスを抱え十二指腸潰瘍になってしまいました。また中学ではいじめにあいました。高校は不登校でしたが、なんとか大学に入学しました。大学進学と同時に一人暮らしを始めたのですが、一人暮らしに慣れず過食症になってしまいました。

しかし、転機が訪れます。大学では中国語を勉強していたので北京に行きました。そこで、東洋医学に出会い胃腸の調子が大変良くなりました。調子が良くなると精神面も改善し、性格も前向きに変わりました。そして、日本に帰って鍼灸マッサージ師になり、ある会社に入社しました。20年前は鍼灸マッサージではどんなに頑張っても年収300万円の壁は越えられないと言われていた時代です。

この仕事の素晴らしいところは利用者の方にとても喜んでもらえるという事です。ある90代の寝たきりの男性がおり、80代のお婆さんが看病するという老老介護の現実がありました。お爺さんが寝たきりだから、3時間おきに寝返りをしないといけない、お婆さんが疲れて嫌になる、そうするとお爺さんが怒ってケンカなる、そういう事を繰り返していました。私がお爺さんに「そんなきつく言ったらダメじゃないか」と言うと、「俺もそんな事言いたくない、言いたくないけどついつい当たってしまう」と仰いました。しみじみ感じました、介護の現実を。
そして、一生懸命マッサージ、リハビリをして数ヶ月で寝返りがうてるようになりました。すると、お婆さんが大変喜んでくれ「ありがとう!これでゆっくり眠れる」お爺さんも「ありがとう、お婆さんとケンカしなくなり心安らかな気持ちになった」と仰ってくれました。その後、その方は残念ながらお亡くなりになりましたが、葬儀場に行きお婆さんが僕に駆け寄って僕の手をとり涙ながらに「あんたのお陰で爺さんの笑い声を本当に久しぶりに聞いた。良い時間を持たしてくれたね」と仰ってくれ、私は泣いてしまいました。

この経験は私にとって本当に強烈で、今まで社会の中で自分には価値がないと思っていた私がこんなに人に必要とされていると思ったら嬉しくてしかたがありませんでした。そして、今の会社を創業したのが2000年です。有り難い事に2000年に介護保険がスタートしたので凄く反響があり、あっという間にお客さんも増えていきました。
しかし、困った事が一つありました。それはキャッシュフローです。医療保険ですので保険請求した後、入金は3か月後となります。それでも従業員の給料は払わなくてはいけないので、消費者金融で資金を調達し支払いに回していました。この苦しい時に同友会を紹介され入会しました。

高齢者向けマッサージ施術

フレアスロゴ 同友会との出会い

当時の山梨同友会はとてもアットホームですごく面倒をみてもらいました。資金繰りの事も相談し教えてもらいました。同友会で学んだ事は「3つの目的」です。中でも特に「よい会社をめざす」というのは衝撃でした。これまで会社経営とは何かを考えたこともなく、経営とは「よい会社」をめざしていかなければならいことに気が付きました。
そして、2002年に愛知で行われた中同協の定時総会に参加し全国展開されている方がいて、衝撃を受けました。私にとって山梨から全国へと視野を広げるヒントを貰った場になった事を覚えています。その後、福岡、沖縄、金沢に進出しました。しかし、金沢に進出した頃に問題が起こります。

フレアスロゴ 3年目のつまずき

山梨本社から電話があり、山梨の事業所を任せていたナンバー2の女性が突然辞めたいと言ってきました。それから、営業マンが私を批判する文書をコピーし社員に配っていたりもしました。もう会社の雰囲気は最悪でした。
現場の利用者は喜んでくれているのに、何故、社員が分かってくれないかと思っていましたが理由は簡単で、私が全国展開したいという思いを誰にも伝えていなかったのです。そんな当たり前のことに気付き、経営理念の共有をスタートさせました。
まず、初任者研修。中途でも新卒でも1週間東京に泊り込みで経営理念、会社の方向性を伝えます。そして、それぞれ現場に戻ってから3ヶ月間、徹底的に研修をします。また、技能水準もバラバラだと顧客から支持されないので、これもコストが掛かってもレベルを上げていきます。
次にワールドカフェという取り組みです。そこでは経営理念ではなく、会社の行動規範、価値観の共有、感謝の気持ちなど、道徳的なところを1週間に1回お茶を飲みながらリラックスした雰囲気で意見交換をします。次に役職者勉強会。今、5人の部長と50人の課長がいます。彼らと隔週でテレビ会議の形で私も参加して経営理念の共有、価値観の共有をしています。内容は、何故我々はこの仕事をしているのか、我々がこの仕事をやる意義は何か、価値基準は何か、ということを徹底的に共通の認識にしていきます。
在宅医療のフレアス社員研修風景

フレアスロゴ 全国展開へ

当時、群馬や仙台など6ヶ所ぐらいで展開していましたが、知名度もなく人材が不足していてこれ以上広げていく限界を感じていました。しかし、逆転の発想で知名度がないなら知名度を上げようと思い、横浜にあるランドマークタワーに移りました。
北海道や四国など全国各地から応募がありました。そして、5年間で6店舗だったのが20店舗までに増やす事ができました。
併せて、「在宅マッサージ入門」という本を出版しました。なかなか好評で、今年も増刷し今ではいくつかの学校で教科書としても使用されています。これも会社の知名度を上げて人材採用に役立ちました。
その後は、本当に忙しく、人もどんどん入り、私自身各地の営業所を回り、新規の出店などで年間250日ぐらい出張していました。猛烈に働いた結果、倒れてしまいました。物も食べられず、1週間ベッドで寝たきりになりました。その時に考えた事は、もし、このまま過労死なんてすることがあったら、この仕事をやっている意味とは何だったのだろうか、と考えるようになり、同時に社員にも猛烈に働くことを強要していたのではないかと思うようになりました。確かにその当時、鬱やパワハラのような事もあり社内風土は荒れていました。
在宅マッサージ(訪問マッサージ)入門

フレアスロゴ 市場をどうみるか

この報告を機に自社のこれまでの展開を振り返ってみました。一つは、マーケットの見方が重要だと思っています。「井の中の蛙大海を知らず」という諺があります。私の解釈としては「井の中の蛙、大海を知って井の中に戻り自分にとって適した場所はどこかということを探さないといけない」と思っています。
我々、中小企業は大企業に比べればはるかに資源がなく真正面から戦っても勝てません。でも、蛙の生きやすい場所はあるわけです。介護の市場は介護という市場の特性があります。更に介護の中でもニッチな在宅医療、在宅医療の中でも在宅マッサージ分野を選びました。
在宅マッサージ分野という小さな小さな池には、競合他社が殆どおらず私はそこで生きていく事ができました。大海の中でもこの池なら勝てるという池が必ずあるはずだと思います。

フレアスロゴ 初心回帰(同友会で学んだ経営理念の再確認)

これではいけないなと感じ、同友会の3つの目的の事を思い出しました。よい会社を目指すということで、良い商品やサービスを提供し、世の中を良くする。雇用を増やし、税金もたくさん払うと考えていました。しかし、雇用を増やすだけではなく「社員が幸せにならなくてはいけないのではないか」と思うようになりました。
そして、社員が幸せになるにはどうしたら良いかを考え、経営理念を変えました。顧客が満足するには従業員が満足しないと良いサービスはできないと考え、今まではCS(顧客満足)のみでやってきたことを反省し、今までの経営理念にプラスして「社員の物心の幸せを追求する」という文言を入れました。

そして、社内研修制度を更に充実させました。まず、メンター制度。この制度は新入社員に先輩社員がついて定期的に話を聞くという事です。この制度を実施してから、新入社員の退職率が激減しました。次に「良くなれ箱」。直接、社長に届く目安箱みたいなものです。そして社内報。社内報は今90号ぐらい発行しています。また不定期にメルマガも配信し価値観の共有をしています。

力を入れているのはITの活用です。無駄な時間をなくそうと、iPad・携帯電話を合わせて1200台ほど全社員に配備しました。業務効率を改善する為に社内でシステム開発も行っています。
2年後には業務効率を20%向上させ、残業をなくします。さらに全員参加型経営として当社は決算書も全て開示しており、部門ごとに会計処理をして数字を見える化しています。これはコスト意識につながり、利益が出たら皆に還元し、それぞれが経営者のような感覚を持ってもらうようにしています。
このような取り組みの結果として、「平成26年度山梨産業大賞(経営品質大賞)」を頂く事ができました。

冒頭に視力障害の社員を紹介しましたがその社員は、元大工で入社当初はとても生意気でした。その後、大変な頑張りをみせて当社のマッサージ師の中で№1になりました。今ではエリア長をやっています。
ある時、彼の新築した家に連れて行かれました。彼は「僕は自分の家を自分で建てたいという夢があったんです。でも目が見えなくなり諦めました。でもフレアスで仕事をすることで、自分の力で新築の家を建てることができ夢が叶いました」と言ってその家を見せてくれました。私は本当に嬉しかったです。フレアスで働いて社員が幸せになっていくということを大切にしたいと思います。

訪問マッサージ研修

在宅医療にタブレットデバイス(iPad)活用

フレアスロゴ 人口構造の変化と医療・介護

私は自社の経営戦略を考える時に必ずこの問題点を基に戦略を練っています。人口構造の変化です。人口構造の変化は、ほぼ間違いなく必ず起こる未来です。1950年代は子供が多くお年寄りは少ない状況で在宅で死亡する方が80%いました。1961年に国民皆保険という素晴らしい制度が始まりました。1980年代まで高成長の時代が続きます。
また社会保障費が一番掛かる80代以上の人口が少ないので高齢者医療費もタダで国民の借金もゼロでした。問題は2007年あたりから顕著になります。人口は減っていますが、人口が減ること自体はそれほど問題ではありません。後期高齢者を取り巻く問題です。具体的には「死に場所が足りない」ということです。2025年には団塊の世代が全て後期高齢者になります。「2025年問題」と呼ばれる大問題です。

先程、昔は80%は自宅で亡くなっていると言いましたが、今は80%が病院で亡くなっています。
昔と逆転しています。ところが、団塊の世代が病院で亡くなるだけのベッド数も医療費もなく、今の日本の医療制度では死に場所がありません。そうすると死に場所が定まらない人が将来的に1年間に47万人、2025年には年間37万人にのぼるともいわれています。同時に大きな問題として、医療・介護に関わる人材の不足です。2025年に、医療で100万人、介護で100万人合わせて200万人が足りないといわれています。そしてお金の問題です。今、医療費は40兆円くらいです。2025年には、60兆円から70兆円になるといわれています。介護に限ると今は9兆円ですが、2025年には24兆円くらいになるといわれています。

問題は財源をどうするかです。これはあくまでも私の考えですが、今後は給付制限がかかります。介護でいうと今、要介護5といって重い人が5、軽い人が1ですが、それの1、2が介護保険適用から外されると思います。もう一つは給付負担です。今、高齢者の介護保険、医療保険は1割負担ですが、これも近い将来2割になるのではないかと思います。

超高齢化社会における在宅医療

フレアスロゴ 生活医療モデルの確立と自社の展開

今、医療の形が大きな転換期を迎えています。自宅での生活を主にしながら患者を支える訪問医療、在宅医療がこれからの日本の医療のメインになると思います。人口構造からいっても明らかです。今後は、地域包括ケアシステム、中学校の学区ぐらい半径2kmを一つの区として、その中で医療も介護も行政も関係する仕組みを1万箇所つくろうとしています。これが日本の将来の生活医療の形だと私は思っています。
当社の将来ビジョンは、病院の機能を在宅に届けるという事をやっていこうと思っています。住み慣れた家にいながらにして、医療サービスを受けられる社会を作ること。それが我々の使命と考えています。「Aging in place」という言葉で示しましたが、住み慣れた場所で老いて亡くなっていくという事です。今、日本は高齢化率26%で世界No1です。そして、2050年頃までずっとNo1です。ただ、日本は課題先進国だけではなく、日本の今の課題は他の国々にも必ず起こる課題です。
我々が今やっている事は他国で役立つと思っています。そして、我々がそこで自分の小さな池をどうやってみつけるのかです。

この激動の時代に新たな道を拓いていくのは青全交に参加している皆さんなのではないでしょうか。私たち青年経営者が新しいマーケットを拓き、ここでなら勝てると道を示すことがリーダーの役割だと思います。日本の労働人口の殆どは中小企業で働いています。つまり、我々が日本社会の担い手なのです。
中小企業の経営者が元気になれば社員も元気になり、社員が元気になれば会社も元気に
なります。会社が元気になれば、日本も元気になります。
私たち青年経営者が明確なビジョンを示し、社員と共に実践して、これからの日本の未来をつくりだしていきましょう。

中小企業で高齢者社会に挑む